Keenleyside, Hugh L. Memoirs: Hammer the Golden Day (Volume 1, 1981).
(要約:木下郁夫 / 文章化:Gemnini Notebook)
第10章に引き続き、ヒュー・L・キーンリーサイド回顧録の第11章をお届けします。この章では、厳しい外交の現場から少し離れ、筆者自身の豊かな余暇の過ごし方や、戦前の日本の文化、風習、そして交流のあった多彩な人々とのエピソードが生き生きと描かれています。
1. 日本文化への傾倒と、スポーツを通じた交流
筆者は日本の風物詩を愛し、帰宅後には浴衣と足袋に着替える習慣を持つほど日本文化に親しんでいました。美しい日本の陶磁器や庭園を絶賛し、特に龍安寺の庭園を「推し」として挙げています。 また、スポーツマンでもあった筆者は、外国人野球チームでの試合や、強敵不在の中で日本のバドミントン選手権で優勝するなど、アクティブな日々を送りました。グルー米大使とのゴルフでは「ダブル・イーグル(アルバトロス)」を達成したという驚きのエピソードも記録されています。一方で、サッカーで交歓した日本人選手の多くが後に戦死してしまうという、時代を感じさせる悲しい述懐も含まれています。
2. 温泉巡りと、驚きの「富士登山」体験
日本中を散歩し、風景の変化を楽しむ筆者にとって、温泉につかることはこの上ない満足でした。秩父の集団浴場では村人と「裸の付き合い」を経験し、日本では「裸は見えるもので、見るものではない」という独自の感覚を学んでいます。 さらに、3人で夜通し富士山に登頂したエピソードも強烈です。ご来光に向かって日本兵が万歳三唱し神を拝む姿を目撃する一方で、旅行者による大量のポイ捨て(ゴミ)に深く失望したという、現代にも通じるリアルな感想を残しています。下山時には灰の斜面をまっすぐ駆け下りるという豪快な体験もしています。
3. 奇妙な異文化体験と天皇への謁見
日本の風習に対する外国人ならではの驚きもユーモアたっぷりに綴られています。たとえばクリスマスの時期には、百貨店のツリーになんと「十字架にかけられたサンタクロース」が飾られていたという信じられないような光景を目撃しています。また、贈り物に際して「つまらないもの」とへりくだる日本の表現にも触れています。 公的な場では、天皇皇后両陛下への謁見や園遊会に参加しました。園遊会で出された洋食を日本人の客がお土産として持ち帰る姿や、女性の地位、男女で異なる日本語の使われ方(女性店員と支配的男性の単語の違いなど)といった社会的な観察も鋭く行っています。
4. 外交官たちの人間模様と、多彩な訪問者たち
この章では、各国の外交官たちへの率直な人物評も読みどころです。頼りになったと高く評価するグルー米大使に対し、フォーブズ米大使は外交を知らず「緊迫した任地に適任でなかった」と辛口です。また、後に駐伊大使として三国同盟を推進する「狂気の」白鳥敏夫との意見対立や、スパイとして名高いゾルゲと関連のあるドイツのオット大使など、きな臭い時代のキーパーソンたちも登場します。 カナダからの訪問者も絶えず、労働活動家ウッドワースが元首のように厚遇された様子や、らい病患者の病院を運営し政府に隔離を求めたリデル女史など、様々な立場で日本と関わる人々の姿が描かれています。
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