Keenleyside, Hugh L. Memoirs: Hammer the Golden Day (Volume 1, 1981).
(要約:木下郁夫 / 文章化:Gemnini Notebook)
第8章、第9章に引き続き、今回はヒュー・L・キーンリーサイド回顧録の第10章をお届けします。この章では、外交の表舞台から少し離れ、当時の日本社会で活動していたカナダ人宣教師たちの実態や、彼が深く観察した日本の宗教、社会奉仕、そして教育事情が鮮明に描かれています。
1. 在日カナダ人宣教師たちの光と影
当時、在日カナダ人の最大勢力であり、最も日本の現実を知っていたのは宣教師たちでした。彼らの多くは高学歴で社会奉仕も行っていましたが、一方で布教だけを行う無教養な宣教師が悲惨な結果を招いたり、血なまぐさい歴史や他宗教への不寛容といった障害を抱えたりもしていました。 しかし、アレン嬢やボット牧師夫妻のようにスラムでの救貧活動に従事して尊敬を集める人々や、医療・農業・教育の実践を通じて献身的に働く宣教師もおり、筆者夫妻は彼らの活動に深い敬意を払っていました。
2. 東洋と西洋の「精神性」とキリスト教界の動向
筆者は、「精神主義によるアジアの遅れ」という当時の説に対して、東洋の残虐さや女性蔑視のひどさを指摘して反論し、「論争をやめて全人類への責任を共有しよう」と訴えています。 また、当時の日本のキリスト教界についても鋭い観察を残しています。指導者であった賀川豊彦については、熱い人物であると評価しつつも、取り巻きが虚像を宣伝していると見ていました。さらに、ブックマン率いるMRA(道徳再武装運動)に対しては、集会での極端な罪の告白や、指導者によるヒトラー礼賛などを理由に、「日本における影響は有害」であるとかなり辛辣に批判しています。
3. 社会改革に尽力したカナダ人女性たちと筆者の入院体験
この章では、日本の社会改革に大きく貢献した素晴らしいカナダ人女性たちの姿も讃えられています。YWCAの初代会長マクドナルドは刑務所改革運動や受刑者の社会復帰に尽力し、カフマンは50年間の貢献により天皇から銀杯を賜りました。また、聖路加病院の看護師長であったアリス・セントジョンも、日本式看護の環境下で特別な業績を残しています。 面白いことに、筆者自身の手術・入院時のエピソードも語られています。術後に誰も様子を見に来ないため抗議の行動を起こしたり、痛みを和らげる道具を自ら発明したり、妻からの読み聞かせを楽しんだりと、外交官の人間味あふれる一面が垣間見えます。
4. 日本の教育への深い探求と執筆活動
「国を知る最良の方法は教育を知ること」と考えた筆者は、日本の教育事情についても深く研究しました。当時の「修身」の授業が天皇への忠誠を美徳としていたことや、女性教育が「良妻賢母」を目的とし、女教師すらも女性の選挙権に反対していたことなどを克明に記録しています。 歴史と現在の両面から得たこれらの知識は、本国への公電だけでなく自身の著述にも大いに活かされました。日本の問題を批判的に論じた彼の著書は絶版になりつつも評判を呼び、「他人の評価はともあれ自分のためになった」と述懐しています。
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