[このブログは2024年6月12日にnote.comで公開された。]

数本の記事をキャンプXとイントレピッドについて書いてきて、秋からの授業のネタになると気づいた。研究では信頼できる資料を使わなければならない、と教訓を垂れるためだ。『暗号名イントレピッド』と『3603号室』は参考文献に挙げるには不正確だ。少なくとも、他の資料と比較検討したうえで使うべきだ。

単独で使って安心できる参考文献は「一次資料」だけ。私の場合、ふだんはそれ以外のものも使っているので、こう書いていて多少、うしろめたい。

なぜ一次資料が大事か?、を述べておきたい。一次資料とは、出来事の当事者や同時代人が直接、見聞し、記録した資料だ。それがなくても確定的な出来事はある。例えば、私が毎日、摂食・睡眠をしていることは確実だ。

確実でなくても、「なかったことは証明できない」と主張して、はばからない人がいる。たとえその主張が論理的、科学的に正しいとしても、現実には詭弁にすぎないことが多い。「なかったことは証明できない」であらゆる可能性を認めてしまえば、それはファンタジーだ。神は起こりやすい可能性から選んでいく。

過去についてのストーリーを真実であると主張するためには「できるだけ」一次資料に基づかせるべきだ。では、キャンプXとイントレピッドに関係する諸文献のなかで、一次資料と呼んでよいものはあるのか? これがあるのだ。しかも、amazon.co.jpで売っている。

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この本の解説を書いたナイジェル・ウェストという軍事史家や別の記事で紹介した『トゥルー・イントレピッド』によると、第二次世界大戦後、役割を終えたイギリス安全保障調整部(BSC)は、5年間で作成した書類をニューヨークからキャンプXに運び、組織の歴史を編纂し、その後、書類を廃棄した。序文の日付は1945年12月31日となっている。真の意味での一次資料は廃棄されてしまった書類のほうだ。

世界大戦が終わり、役割を終えた組織が最後に自らの歴史をまとめた記録はいくつもイギリス国立公文書館(TNA)に保管されている。BSCの歴史が特徴的なのは、とりわけ大部で、製本までされたことだ。印刷された20部のうち、10部は廃棄されたが、残る10部はウィリアム・S・スティーブンソン局長ら関係者に配られた。

H・モンゴメリー・ハイドによるスティーブンソンの伝記『静かなるカナダ人』、または『3603号室』、も『イギリス安全保障調整局』に依拠している。

1998年に『イギリス安全保障調整局』は復刻されて、古本が1万円くらいでアマゾンで売っていた。私はそれを買った。公文書館から直接、入手したわけでないが、暫定的に信頼しておく。

この復刻版に、ナイジェル・ウェストが寄せた解説が付いている。ハイドが書いたスティーブンソンの伝記がトラブルに見舞われたことを、彼は次のように伝える。

ハイドはせっかく一次資料を参考にしたのに、伝記の執筆では事実でないことを盛ってしまった。隠密行動を暴露されたあるエージェントは名誉棄損でハイドを訴えた。ハイドは賠償しなければならなかった。物を書く者にとっては、ぞっとさせられるエピソードだ。一次資料が元ネタでも、粉飾してしまっては元も子もない。ましてやこの記録は機密文書だろうから、ハイドは泣き寝入りするほかなかった。

私はこれから『イギリス安全保障調整局』の本文に目を通す。興味を引くことがあれば報告したい。