国際システムは国家を基本単位とするネットワークである。地球の中心は鉄とニッケルの塊で人は住めない。地表にへばりつくように生きる人間たちを分散型のネットワークで結びつけるのは合理的であるように感じられる。

今回のテーマは、国際関係に関する具体的な事例を選び、ノードやエッジといったグラフ理論の用語を少なくとも二つ使って、その事例を解説しなさい、である。

数学ではネットワークのことをグラフまたは離散グラフと呼ぶ。高校でそれを教える数学Cの教科書には、「離散グラフの点を頂点、線を辺といい、頂点に集まる辺の本数を、その頂点の次数という。」と書かれている[1]。英語では頂点をノード、辺をエッジという。

最も単純なグラフには、単一のノードだけが存在する。平原に独りぼっちの人、宇宙で生命が存在するただ一つの星、などがそうである。地平線上に別の人間が見えたり、はるか彼方の星から知的生命体由来の電波を受信したりしたら、ノードは複数存在するが、エッジは存在しない状態ということになる。こうした究極のソーシャルディスタンスを空グラフ(くうぐらふ)と呼ぶ。すべての国家が鎖国していて交流がない状態も同じである。

特定の国家をノードとし、たがいの関係をエッジとすれば国際システムのイメージにぴったりはまる。東西交通が不便であった時代、シルクロードの西端と東端は、ローマと漢のように、間接的に噂を耳にするだけで、パルティアやクシャナ朝を介する幾次もの隔たりがあった。そうしたノードとノードが一本道のエッジでつながるものを道またはパスと呼ぶ。

大航海時代になると、海に面した国々は直接、接触し、大使館や商館で常時つながったが、グラス密度は低かった。1900年になっても、仮にモンテネグロが南アフリカ(トランスバール)にメッセージを伝えるとして、トルコとポルトガルとどこかほかの一国を介さなければならず、ネットワーク距離は4であった。地球が狭くなった21世紀では、外交の最大距離は3に縮まっている。

空グラフと逆に、全ノードが他のすべてのノードに対してエッジで結ばれるグラフは完全グラフと呼ばれ、グラフ密度は1である。特定の国家間では同盟または自由貿易協定がすきまなく張りめぐらされ、完全グラフになっている。例えばEU(欧州連合)がそうであるが、経済の相互依存を管理するために外交でも加盟国は他の全加盟国に大使館を置き、ヒト・モノ・カネ・情報の移動を調整している。

ノードの種類が二部構成で、全エッジの両端が異なる種類のノードを結ぶものを二部グラフという。宗主国と植民地、大国と小国との関係は二部グラフで表現できる。前者において、宗主国は総督や高等弁務官を植民地に置いて統治し、後者の大国は安全保障協定や軍事基地によって影響力を広げる。こうした一対多の二部グラフはスター(星)といい、中軸の宗主国や大国はハブと呼ばれることがある。東アジアでは、大国のアメリカ合衆国と小国の日本・韓国・フィリピンの関係がこの形を成しており、小国どうしに安全保障の取り決めはない。

条約や協定などの合意は相互的な行為であるので、誰から誰へ、という向きはないが、貿易には輸出と輸入と向きの区別がある。エッジに向きがあるグラフを有向グラフという。モノの移動にかぎらず、カネ・ヒト・データの移動にも方向はあるし、言葉による一方的なメッセージには覚書・通牒・通告・書簡といった呼称がある。

このようにグラフ理論はネットワーク状の国際関係を記述するのに適している。しかも、それは数学的な記述にも適しており、各ノードを要素とし、エッジの値を成分とする行列として表現できる。高校教科書の定義では、「nを自然数として、離散グラフの頂点をP1、P2、……、Pnとする。このとき、n次の正方行列Aの(i, j)成分を、2つの頂点Pi、Pjを結ぶ辺の本数とする」。こうした行列Aは隣接行列と呼ばれる[2]

数学的記述に適するネットワーク分析はコンピューター処理に適している。Pajekという専用のソフトウェアは入力された数値データからネットワークの統計量を簡単な操作で計算してくれる。

ネットワークに注目した国際関係論の学者にはツェーブ・マオツがおり、2010年に『ネットワークス・オブ・ネイションズ』を出版した[3]

筆者自身もネットワーク分析を試みた。「国家間社会はスモールワールドなのか?―大使館分布のネットワーク分析」(2011年)という紀要論文は大使館/公使館ネットワークを分析した。国際システムは110年まえより密で狭くなっているものの、世界を結ぶハブにアメリカ合衆国がなりきれていない、と議論した[4]。同じく筆者の「外交代表に対する紛争の影響」は英語のプレプリントであり、政府および国家の正統性低下に外国使節団を減らす効果があることを検証した[5]

国力の分析にもネットワークの観点が近年、取り入れられている。2021年にアメリカ合衆国の国家情報会議(NIC)が発表した報告書「グローバルトレンド2040―争いが増える世界」には、国力の構成要素として、物質的力、テクノロジーの力、人的資本、ネットワークおよびノード、情報および影響力、そして強靭性が挙げられている。ネットワークおよびノード、というのは、国家がどれだけ多くの他国と関係を持っているかということで、ネットワークの中心にあるほど、グローバルに影響を与えることができる。強靭性とはショックに耐える力であるが、政府の管理能力だけでなく、人々の信頼関係も必要である[6]

覇権国とされるアメリカ合衆国にとってもネットワークは必要である、と主張するのはロバート・O・コヘインとジョセフ・S・ナイである。グローバリゼーションは経済成長をもたらすと同時に環境問題を引き起こし、それらを維持管理するために合衆国はリーダーとしてネットワークの中心に立たなければならず、そのことにより利益を得る、というのである[7]

筆者がPajekで計算したところ、他国との距離が最も近い国(他のすべての国との距離の平均値が最小の国)は2010年にはアメリカ合衆国であった。外交ネットワークの中心に同国があるのは実証される[8]

コヘインとナイは相互依存を唱えたことで有名であり、自由主義学派の代表とされる。現実主義と自由主義は異なるネットワークの捉え方をする。

現実主義者にとって、国家は硬い殻に覆われたビリヤードボールである。国家を代表する政府をノードとし、諸政府の間を結ぶエッジから成るネットワークを描くことができる。政府間の公式な通信手段が外交であり、公式な約束が条約である。一見したところエッジがない二国間でも、軍事的圧力などでにらみ合っていれば関係が存在しないわけでない。国交のない日本と北朝鮮でも、北京にある両国の大使館どうしでやりとりをする「大使館ルート」があるが、それを持ちだすまでもなくニュース番組で政府声明が報道されることでメッセージの応酬が成立している。

他方、自由主義者は、国家間には民間のものや多国間の枠組みを含め、多様なつながりがある、という複合的相互依存の見方をとる[9]。国家の壁は個人や企業によって簡単に越えることができる。人類は国際システムより、トランスナショナルシステムやグローバルシステムとして認識するべき段階に入ったかもしれない。

地球には、陸があり、海がある。気候があり、自然資源がある。ネットワークの形成も、こうした地理の影響を免れない。地理を基礎にして政治と軍事を研究する現実主義のアプローチが地政学である。今回後半のテーマは地政学の古典について知ることである。

地政学の特徴が最もよく表れるのは、陸と海との対照である。画期的な研究をしたのはアメリカ合衆国の海軍教官アルフレッド・T・マハンであった。彼が海軍力をシーパワーと呼んで、その歴史への影響を論じた『シーパワーの歴史への影響、1660年―1783年』を著したのは1890年である。シーパワーによって交通線を守り、生産網・通商網を確保する重要性を説く。言い方を換えると、ネットワークの海上部分をつなげたり、切断したりできる能力がシーパワーである。

逆に、陸の重要性を唱えたのはイギリスの地理学者ハルフォード・マッキンダーである。彼は1904年に「歴史の地理的なかなめ」を書き、ユーラシア内陸部の「ハートランド」に注目した。ハートランドは扇のかなめに当たり、そこからどの沿海部にでも進出することができる。つまり、それはネットワークのハブに相当する。ハートランドから見て、氷に閉ざされた北側を除くユーラシア大陸の沿海部が「三日月地帯」である。マッキンダーが作った世界戦略の格言を引用する。

東ヨーロッパを支配する者がハートランドを制し、ハートランドを支配する者が世界島を制し、世界島を支配する者が世界を制する

「世界島」というのは、ユーラシア全体と、それと陸続きであるアフリカを包括した概念である[10]。三日月地帯の外側には南北アメリカとオーストラリアが位置するが、それらは面積が相対的に小さく、世界島に対抗できない。

マッキンダーの理論と当時の世界情勢を比較検討すれば、真意はロシア脅威論であることは明らかである。事実、イギリスとロシアはイラン、アフガニスタン、そしてチベットをめぐってグレイトゲームズと呼ばれる帝国主義の競争をしていた。マッキンダー的に言えば、これはハートランドの支配をめぐる戦いであった。

地政学がその論者の所属する国や団体に奉仕するようにしつらえられることは、よく見られる。ドイツのカール・ハウスホーファーはナチスに利用され、特に「生存圏」の概念がアドルフ・ヒトラーの戦略思想に影響した。

ニコラス・スパイクマンの『平和の地政学』は、彼の死後である1944年に出版された。それは冷戦におけるアメリカ合衆国の教義、つまり封じ込め、を予言したことで名高い。ハートランドは航海と航空の発達により、以前ほど重要でなくなった。むしろ、「リムランド」とスパイクマンが名づけたユーラシア沿海部の支配のほうが重要である。

当時の情勢では、リムランドをめぐって、いくつかの勢力が抗争していた。シーパワーであるイギリス・日本・アメリカ合衆国、リムランドであるドイツ・フランス、そしてハートランドであるソ連がそうした諸勢力である。彼も格言を残した。

リムランドを支配する者がユーラシアを制し、ユーラシアを制する者が世界の運命を制する

リムランドがどこかの勢力に支配されれば、アメリカに脅威が及ぶ、とスパイクマンは警鐘を鳴らした[11]。ネットワーク論の語り方をすると、ホイールをがっちりとつかめば、車輪全体を制御できるというわけである。


[1] 坪井俊ほか、『数学C』、数研出版、2025年、191ページ。

[2] 坪井ほか、『数学C』、184ページ。

[3] Zeev Maoz, Networks of Nations: The Evolution, Structure, and Impact of International Networks, 1816-2001 (New York: Cambridge University Press, 2010).

[4] 木下郁夫、「国家間社会はスモールワールドなのか?―大使館分布のネットワーク分析」、『愛知県立大学外国語学部紀要』(地域研究・国際学編)、第43号、2011年。

[5] Ikuo Kinoshita, “The Effect of Conflict on Diplomatic Representation.” APSA Preprints, 2020, doi: 10.33774/apsa-2020-50x9z.

[6] “Global Trends 2040: A More Contested World,” National Intelligence Council, March 2021, pp. 92-93.

[7] Robert O. Keohane and Joseph S. Nye, Jr., “The End of the Long American Century,” Foreign Affairs, June 2, 2025. https://www.foreignaffairs.com/united-states/end-long-american-century-trump-keohane-nye, accessed on February 13, 2026.

[8] 木下、「国家間社会はスモールワールドなのか?―大使館分布のネットワーク分析」。

[9] Robert O. Keohane and Joseph S. Nye, Power and Interdependence, 2nd ed. (New York: HarperCollins, 1989).

[10] Halford J. Mackinder, “The Geographical Pivot of History,” in Halford J. Mackinder, Democratic Ideals and Reality, with Additional Papers (New York: W. W. Norton, 1962), p. 261.

[11] ニコラス・スパイクマン、『平和の地政学』、奥山真司訳、芙蓉書房出版、2008年。

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